歌うたい

今日も君が、君に優しくない人のことを教えてくれて、

似たような嫌悪感を抱くことに少しだけ幸せを感じながら、

あてのないような帰り道を辿り始める。

 

火曜日の最終電車は、蒼白く光る液晶画面とその保有者で溢れている。

それぞれが違う場所に繋がっていて、此処では息をしていないような風景だった。

 

気に入っているヘッドホンを耳にはめると、

今朝のプレイリストがまた歌い始める。

 

流れていく街は変わらず動いているのに、

脳の輪郭に伝わる僕にしか聴こえない歌が、暗さも解らない夜の空に響いている。

 

外の景色と無関係に流れる歌は、僕に秘密を教えてくれるみたいだ。

君の思っていることの全てが、このヘッドホンみたいに聞こえたらいいのに。

君にしか歌えない歌が、僕にしか聞こえなければいいのに。

 

音が鳴るこの紐は、くだらない世界との境界線に変わる。

 

目の前の景色が虚構に見えるように、

君の声だけが本当になればいいんだよ。

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