これまで当たり前だったことが突然変わることに気がおかしくなるのはいつも最初だけで、 いつの間にか慣れて忘れてしまう。 自分よりも、脳の方が単純にできてるなんて、 何だか笑っちゃう話だよね。 辛いことがあると…
物体や人などが、光の進行を遮る結果、壁や地面にできる暗い領域。 それを、影と呼ぶらしい。 光が直進的に進むから、君の輪郭がその行く手を遮って影をつくる。 影ができる壁や地面には角度がついているから、 その影…
長いような短いような、時計が狂ったままの一年の中で、 たった一日だけ、 死ぬこと、生きることでは無く、 「生まれたこと」を想い出す日が、僕らにはある。 父か母か、どちらかはよく知らないけれど、 出生届と書か…
余計な光が君の輪郭を浮かび上がらせることに吐き気がして、 僕は無心でブラインドの隙間を閉じる。 まだ昼間だと言うのに、外の光を遮断してつくった暗室。 この広い暗がりの中で、 君を正確に写し出せるのは僕以外に…
決心のきっかけは理屈ではなくて いつだってこの胸の衝動から始まる という、僕自身のひとつのきっかけになってくれた歌をオーケストラの演奏で聴いた。 前奏が始まると同時に涙が溢れてきたけれど、 花粉症の僕にはその滴が痛くて、…
今日も君が、君に優しくない人のことを教えてくれて、 似たような嫌悪感を抱くことに少しだけ幸せを感じながら、 あてのないような帰り道を辿り始める。 火曜日の最終電車は、蒼白く光る液晶画面とその保有者で溢れてい…
男にとってはゴールで、 女にとっては始まりのことがある。 求め合うことは、すれ違うことと表裏一体で、 空白を満たしてくれる刹那は同時に新しい空白を生み出していくよ。 だから僕らは新しい異性を求…
好きとか、愛おしい、という感情は、 きっと、火傷に似ている。 燃えて、焦がされ、 ちくちくと痛む痕になって、 皮膚の一部に住み着く魔物。 痛みの感覚は脳が受け取る信号の一種類でしかなくて、 そ…
温かい湯船に浸かっていると、 いつかこの体温が冷め切って、 思考も感情も全て停止するということすら、 想像の選択肢から消えてしまう。 やがてその湯船は温度を下げ、 冷たいねと感じてはじめて、ぬくもりだったと…
「徐脈」という、通常の人よりも脈拍が少ない不整脈の一種がある。 僕が、それだ。 心臓から脳に向かって血液が運ばれる回数が少ないから、 血液が運んでくれる酸素の供給も、人より足りていないらしい。 そのせいで、…