チェンジス

慌ただしくすぎて行く日々にうんざりしながら、僕は何度も美容院に行くチャンスを逃していた。
正月をゆっくりと実家で過ごしたのが、まるで嘘のように記憶の中で霞む。

ようやくいつもの鏡の前に落ち着いたのは、3ヶ月振りのことだった。

この長いのかどうかすら感覚にできない、鈍感な時間を振り返りながら、
昨夜の気分で決めた、プレーンマッシュという髪型をオーダーした。

人生の中で、前髪を切り揃えるのは今回が初めてになるかもしれない。

そんなどうでもいいことを考えて、少しにやけて鏡を見ていると、
どの引き出しから出て来たのか分からないが、
子どもの頃に聴いていた、David Bowieの「Changes」という曲を想い出した。

この曲は1971年に発表された曲だから、もちろん僕はリアルタイムで聴いていたわけではなくて、
グラムロック、という言葉の響きがなんだか興味を掻き立てるから、
後追いで時代の感覚を想像しながら聴いていた。

Time may change me
But I can’t trace time

時間は僕を変えて行くけど、僕は時間を遡れない。

この曲は、ボウイの代表曲として知られ、
「変化」をテーマにした歌が、その後の彼の音楽性を象徴しているなんて評されているけど、
僕は、自然に変化してしまうものへの「嘆き」を託した歌だと解釈している。

変化は、水面の波紋のように目に映るけど、
それが大きな流れになることはない、とボウイは歌う。

自発的で、内面から生まれる変化には、何かを変えるような力はなくて、
僕は時代が勝手にもたらす変化には勝てないんだ。

そんな絶望の中で、それでも自分が変わっていかないと狂ってしまいそうな、
渇いたカラカラの叫び声が聴こえてくる。

「変化だよ。変化なんだ。」

変わることを肯定することが、この世界のバランスをとるには一番なのかもしれない。

 

実態が分からなくて、いつも怖くて押しつぶされそうになる、
憂鬱な不安の正体も、きっと「変化」だ。

不安が変化のことだとしたら、時間が僕らを変えて行くし、
一生をかけて、この憂鬱とは付き合って行くしかない。

だから、「変わること」を明確でシンプルな言葉で口ずさむボウイの歌が、
こんなにも長く時代を超えて愛されているんだ。

 

時代が僕らを変えることに逆らいながら、
僕たちも変わって行く。
きっと何も変えられないけれど。

 

僕は今日、髪を切った。

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