ボーダー柄と日常

不要と思える中身を減らしたはずの鞄がまだ重く感じる。
ずしりとくる重力を右肩だけに感じながら、
ビルの内側に押し込まれた窮屈な階段を駆け足とは呼ばない程度の速さで降りていく。
高層階行きのエレベーターでは僅かな時間で考え事をしてしまい、降りるべきフロアをひとつ通り過ぎてしまったからだ。

微細なレイアウト変更で移動したばかりの自席に着くと、この半年間に何度か見たことのあるボーダー柄の服を着たカジュアルな君と挨拶を交わす。
君を思い出すときに同時に思い浮かぶ、君を印象付ける部品の一つだ。
くだらない日常はまるでその胸元から等間隔に並べられた絵柄のように、一定の間隔で境界線が引かれているだけの連鎖に見える。

お疲れ様ですと少しだけ無理矢理が混じった高い声で挨拶をしてくれる美人社員の顔には明らかに疲れが浮かんでいて、僕はその表情から目をそらす。
きっと僕も似たような顔をしているんだろうと思ってしまうことに余計な不安を感じたくはない。

春の訪れを知らせたがる空は、ここ数日の間ずっと曖昧な雨を降らしている。
嘘がバレてしまうまでの時間稼ぎのように、その雨粒ひとつひとつに理由は無く、僕の心を憂鬱にさせるには十分だった。

明日は晴れるといいな、空も心も。なんてそんなことは、目のすぐ上にあるはずなのにその存在を感じることがない睫毛の軽さほども期待していない。

睡眠が始まる瞬間に無意識に引かれる日常の境界線を、少しだけ自分の意思で歪めたいという思いが胸の底に疼いているのは見え透いている。
ただその解決方法が分からずに、僕は与えられた責務をどうしようもなく片付けていく。

きっと今日も君に会うことはなく、
脳に貯まった酸素を使い果たした後に、真夜中が訪れて、誰かが僕の日常に境界線を引くのだろう。

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