終わり道

終わる時を見つけた私たちは、
それがまるで突然訪れた悲劇に見えるよう、気づかないふりをして日常を繋ぎ、静かにその時を待っていた。

アスファルトを避けるようにして道端に咲く草花が、光と水を吸い込むことを諦めてやがて枯れゆくように、街行く誰の視線にも触れられないまま弱々しく萎んでいく姿を自分たちの視界にだけ晒すのは嫌だ。

考えつく限りの言い訳を候補に挙げてみても、やはりここは突然死を装い、二人とは何一つ理由のつかない唐突な日時と場所で終わらせる方が、見栄張りな私たちが周囲の人間たちに終わりを知らせるには最も都合がいいだろうという結論に帰結する。

私たちが出逢う前の元どおり何もない状態に戻るだけのはずなのに、きっと風の湿り気で歪んだ毛先だとか映画館の席を探す仕草とか本当に些細な拍子に君のことを感じてしまうだろうし、脳内に君の記憶が書き込まれる以前の私に戻ることは無いでしょう。

私たちはいずれ枝分かれすることを知っているこの道を遠まわりしながら歩く。

今まで君の輪郭しか見ていなかったので、こうして改めて客観視すると、揃うはずのない歩幅がやっぱり全く揃っていないし、空気に紛れて君の匂いを見つけられる私の特殊能力が胡散臭い手品のように子供騙し染みて感じられ、本当は泣きたいのにむしろ笑えてきてしまう。

私はきっと君では無い誰かを探すだろう。
嫌いになったわけでは無いので、君の人格を他の人にコピーできればいいのだけれど、はじめのうちは新しい君と君の相違点に蛍光ペンで記しをつけながら、許せる違いとそうでない間違いを仕分けていくことになるのかな。

それはとても面倒くさいから、君が最後に手を振ったらその指でこの文書を消去してください。

白紙に戻して、無題のドキュメントをまた開くの。
私たちの文書は自動保存を繰り返しているだけだから、きっと最後に更新する内容は一度も保存されることがなくて、復元する可能性すら許されないはずだよね。

それが本当の終わり。
名前をつけて保存するボタンを押してしまったら、また続きを開いてしまうから。

終わらせましょう。最後は大量の空白で用紙を埋めればいいわ。

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