スケールアウト

声に透明なんてないのに、トレーシングペーパーのように柔らかく、まるで月の光を捕まえて包み込んだ君の歌声が夜の体温を調節する。
僕は歌に合うようなフレーズを奏でるけれど、半分はその場で思いつく即興だ。覚えたスケールから少し音を外しながら、無理矢理に主音に戻して誤魔化している。

最初から譜面を渡されて、この通りに練習すれば素敵な演奏家になれるよと示唆してくれるほどに人生は甘くなく、日常は想像以上にスケールアウトしながら進行していく。楽譜が読めない人の方が大衆を揺さぶる歌をつくってしまうことがあるし、ようするにルールなんてものは過去から受け渡された遺書のようなものだよね。
大変に有難いものだけど、そのルールを作った人はここにはいないから、監視されることもない。自由にやればいい。

自由とは人それぞれで解釈が難しいけれど、この身体ひとつに感情を宿して今を生きていること自体が、自由と呼べるものなのかもしれない。

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