サヨナラを言いかけた君が、無意識にポケットの中の鍵を探すように、数秒間だけ思いを巡らせ別の言葉を選び直す。
僕らの日常の中で、別れ際に直接的な台詞を言うことは稀だ。
少しずつ君の背中が遠ざかっていくと、二人の間に距離と呼ぶものが存在することを朧げに感じる。
待ち合わせの時は気づかなかったのに、離れることで初めて、僕たちは元々離れていたんだと気づく。
一歩一歩、遠くなっていくのに、
切なさが重なって、聞こえないはずの足音は徐々に頭の中で大きくなっていく。
別れとは、出会った事とのサヨナラではなく、
君に執着したことや、一緒に感動した出来事に、
この先、二度と出会えなくなること。
出会いは残酷ではなく、
人を好きになるという当然のことが、別れを定義する。
君に興味を持たなければ。
君が僕に影響を及ぼし、僕が君を意識していなければ。
時間を想い出として記憶に残さなければ。
日常に感動を求めることなく、無感情で生きられるとしたら。
できることなら別れの時が来る直前に全てを忘れて、
名前も知らない星がいつの間にか見えなくなった程度の、
苦しみを覚えない現象で終わって欲しい。
いつ別れが来るか分からないのであれば、
いっそのこと、今全てを忘れさせて欲しい。
どうして、こんなにも人を好きになってしまうんだろう。
哀しすぎる。