今日も君が、君に優しくない人のことを教えてくれて、 似たような嫌悪感を抱くことに少しだけ幸せを感じながら、 あてのないような帰り道を辿り始める。 火曜日の最終電車は、蒼白く光る液晶画面とその保有者で溢れてい…
男にとってはゴールで、 女にとっては始まりのことがある。 求め合うことは、すれ違うことと表裏一体で、 空白を満たしてくれる刹那は同時に新しい空白を生み出していくよ。 だから僕らは新しい異性を求…
好きとか、愛おしい、という感情は、 きっと、火傷に似ている。 燃えて、焦がされ、 ちくちくと痛む痕になって、 皮膚の一部に住み着く魔物。 痛みの感覚は脳が受け取る信号の一種類でしかなくて、 そ…
温かい湯船に浸かっていると、 いつかこの体温が冷め切って、 思考も感情も全て停止するということすら、 想像の選択肢から消えてしまう。 やがてその湯船は温度を下げ、 冷たいねと感じてはじめて、ぬくもりだったと…
「徐脈」という、通常の人よりも脈拍が少ない不整脈の一種がある。 僕が、それだ。 心臓から脳に向かって血液が運ばれる回数が少ないから、 血液が運んでくれる酸素の供給も、人より足りていないらしい。 そのせいで、…
感情を表現する、と言うが、大きな誤解だ。 感情は常に膨張と収縮を繰り返しているから、 ある一点を切り取り、表層的なものにすり替えて提示することは不可能だろう。 コップに注がれる水のように、 極限まで、溢れ出るまで、膨らん…