愛していることを伝えるときは、 自分がその対象にどれだけ愛されたいと思っているか予め差し引いておいたほうがいい。 自分が愛されたい気持ちの方が強いなら、 あなたが誇らしく思う相手への愛情は、 ただ醜いだけの求愛行動…
僕の隣を一時的な居場所にしてぼんやりと歩く君は、僕とは違う方角に視線を向けながら、あてのない風景をやり過ごしていく。 僕も同じように景色を無機質化して意味もなくただ眺めているから、時折消えてしまいそうになる時間をためらっ…
僕に寄りかかる君の体温は、どこか遠くにあるような温もりだった。 他人の弱みは能動的に見たがるくせに、 自分の弱さには目を伏せるどうしようもない生命体。 弱さは空白にしておいて、それを埋めるように言い訳を吐き、取り繕うため…
声に透明なんてないのに、トレーシングペーパーのように柔らかく、まるで月の光を捕まえて包み込んだ君の歌声が夜の体温を調節する。 僕は歌に合うようなフレーズを奏でるけれど、半分はその場で思いつく即興だ。覚えたスケールから少し…
パスポートを提示すると、馴れた手つきの機械操作の後に出国を許可する印が鈍い音と同時に押し込まれる。 その低音とは裏腹に、日頃の人間関係を軽やかに客観視できるようになる魔法染みたゲートを潜って搭乗口へと向かう。 雨で霞んだ…
終わる時を見つけた私たちは、 それがまるで突然訪れた悲劇に見えるよう、気づかないふりをして日常を繋ぎ、静かにその時を待っていた。 アスファルトを避けるようにして道端に咲く草花が、光と水を吸い込むことを諦めてやがて枯れゆく…
不要と思える中身を減らしたはずの鞄がまだ重く感じる。 ずしりとくる重力を右肩だけに感じながら、 ビルの内側に押し込まれた窮屈な階段を駆け足とは呼ばない程度の速さで降りていく。 高層階行きのエレベーターでは僅かな時間で考え…
僕は滅多に小説を読まない。 事実を知ることが好きだし、 曖昧な空想に左右されることに、勝手な苦手意識を感じている。 人が書いた文体に頭を馴染ませるのにも時間がかかる。 そんな僕が、小説を読みたいと思い立ち、 3冊目に手に…
星空の下のディスタンス 燃え上がれ!愛のレジスタンス 僕はこの歌で、距離と抵抗の英語表現を知った。 人間関係とは磁石のようなもので、 知らないうちに反発していたり、強く引き寄せられていたりする。 一度強く引…
雨がアスファルトに滲んで、なぜか柔らかく感じる春の稲光を見つめながら、 人はただ一直線に舗装された道を歩くことは無いんだろうなということを不意に思う。 この地球は自然が創ったものだから、元々はでこぼことした砂の道で、 僕…